く
*「きっとまた会える」の続編です。
くだらない賭け
あれから数年が過ぎ、僕は中学生になりました。
あの日の約束とは裏腹に灰原さんとは一度も会えないままです。
もう僕たちの…、いいえ、僕のことなんて忘れてしまったのでしょうか。
少年探偵団はいつのまにか消えてしまい、それでも元太くんや歩美ちゃんとは仲良しでしたが、中学に入ってからはすっかり縁遠くなってしまい少しさびしい気分です。
歩美ちゃんは時折さびしげにしているところを見ると、やはりまだコナンくんのことを…。元太くんは、そんな歩美ちゃんを見て切なそうな目になります。そして僕はといえば。
あの日の約束。僕はまだ信じている──ずっと心にある、むしろ誇らしく思うほどに。
きっとまた会える…。
今日はいつもと違って新任の先生がうちの学校にやってきました。
理科の先生だそうです。
朝から朝礼で欠伸を噛み殺して見ていましたが、遠目でもわかる赤みがかった茶色の髪、凛とした姿勢、厳しい瞳…。それを見て僕の心臓は鼓動を早めました。
もしかしたら彼女かも。
どうしてそんなふうに思えたんでしょうか。だって、先生ならば僕よりはるかに年上なわけで。灰原さんは同級生だったのに。
だけど──直感は確信に変わっていきます。
彼女の声を聞いて。そしてその視線が僕を捉えて。
確かに懐かしい表情が読み取れました。気のせいなんかじゃありません。
僕は本人に確かめたい気持ちでいっぱいになりました。
これは賭けです。
あの日の約束を覚えているなら──。
放課後、偶然は向こうからやってきました。
いえ、半分はこちらから。いつも通らない理科室の前をゆっくり時間をかけて通ってみたのです。
そしてその扉を開け理科室から彼女………。
時間が止まった気がしました。
僕たちは見つめあい、僕は確かに彼女の瞳に浮かぶ涙を見たのです。
「ちゃんと約束守ってくれたんですね」
これは賭けです。
彼女の想いが少しでも僕にあるのなら…。
僕の言葉に彼女が見るからに動揺しています。
「僕、ずっと信じてました」
そんな彼女を見据える。答えを聞くまで逃がさないとでも言うように。
すると。彼女は微笑みました。そして口元が動きます。
聞き取れないくらいの小さな声で彼女は。
「きっとまた会える………」
そう言ったのでした。
「おかえりなさい」
「ただいま…」
まるでとてもとても長い間離れ離れだった恋人同士のように、僕たちはそこで見つめあいました。
窓から夕陽が射し込み、僕たちをいつまでも照らしていたのです。
おしまい
*おねだりに弱いのでした。華姉に捧ぐ。
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