勝 負 !!
「ささ、蘭くん。そこでニッコリと笑って」
「目暮警部……、ホントにするんですか?」
「やっぱり怖いかね?」
「そ、そうですね……」
「でも、わたしもちょっと興味があるんでね」
悪戯っぽい目で笑う警部が、蘭の頬にそっと手をかざした。
…と。気配。
ダダダダダ……。
「来ましたよ。け、警部」
近づく足音。殺気だった空気。それは……。
「蘭─────っ!!!!」
そして。もう一つの声。
「蘭─────っ!!!!」
「はい。スト───ップ!!工藤くん、毛利くん」
警部が手でその名の二人を制した。
「け、警部殿!!うちの娘になんてことを!!」
激怒する小五郎。
「目暮警部!!一体これはどういうことなんですかっ!!蘭に手を出すなんて…ったく」
続いて抗議する新一。
「ほぼ同時だったようだね。蘭くん」
「はい、ホッとしました」
すると小五郎と新一、二人同時に、「なんですか?警部」と迫った。
「まぁ、二人とも熱くなるのはやめたまえ。わたしから明るい未来のために助言しようじゃないか。
まず毛利君。今見たように、工藤君がいかに蘭君を気にかけているか、駈けつける早さが物語っているとは思わないかね?
そして、工藤君。君だって毛利君の親心がわかるだろ?それは言葉だけじゃないってことが今証明されたも同然だ。
つまり。互いの思いを比べられるはずなどないということだ。
蘭君は、工藤君と結婚しても、毛利君の娘であることには変わりはない。二人で意地張ってないで、それを認めて仲良くやるのが一番じゃないかね?」
要するに、結婚を許さない小五郎と、それを理解出来ない新一と、ただ過ぎていく時間の空しさの中にいる蘭に、ほんのちょっぴり目暮警部が後押しをした。とそういうことだった。
「二人でじっくり話し合うことだな。それじゃ」
警部は背を向け、自分の台詞に酔いしれながらその場をあとにした。
「そ、そういうわけだから…あはは」
苦笑しながら二人の様子を見る蘭だった。
「気にいらねーな…」
小五郎は渋い顔を見せた。
「だいたい、俺と同時にたどりつくなんて、全然ダメだ。なぁ、新一。おめーはいくつだ?俺よりずっと若ぇはずだよな?それで同時だって?…ちっーと蘭への思いが足りないんじゃねーか?」
悪態をつく小五郎だった。
「おっちゃん!!言い訳みたいになるから言いたくなかったけどよぉ。俺とおっちゃんのいた位置を考えてみろよ?50メートル…いや、80メートルは離れてたじゃねーか?」
新一は怯まない。
「ったく、グジグジと文句言いやがって」
「なら今度は絶対負けねーからな!!」
「今度だとぉ!!よーし、わかった。それじゃ俺もおめーも探偵だ。正々堂々と推理勝負で決着つけようじゃねーか!!」
「お、おっちゃん……言ってることわかってんのか?だいたい、おっちゃんは………」
と言いかけた新一を蘭が止めた。「それ以上はダメ」と瞳が制してる。
「おーし、受けて立ってやる!!」
新一は意気揚揚と胸を張った。
「俺が負けたら……そん時ゃ…そん時ゃ蘭をくれてやらぁ!」
背中を向けた小五郎の、少しさびしげなその声が響く。
「お父さん……」
蘭がその後ろ姿を追った。
今日だけは、何も言わずに蘭の行くのを見送ろう。新一は、踵を返して一人帰路についた。