きっともうすぐ
結婚式に招待されて教会に来ていた。本当なら一緒に新一も来るはずだったのに。直前に携帯が鳴った。
また事件。いつもいつも。また事件。毎度毎度。そんなに事件が好きなのかしらね。…好きなのね、きっと。
ため息を隠して笑顔を繕う。そう、今日は結婚式だもの。おめでたい日だもの…ね?…と、建物の木陰で佇む白いドレスが見えた。白いドレス…それは紛れもなくウエディングドレスだ。と言うことはこの場合新婦。つまり佐藤刑事なわけで。
思わず背後から近づいて声をかけた。
「どうしたんですか?そんなところで」
振り返った佐藤刑事はハッとしていて、その手には携帯が。
「あ、ごめんなさい。電話中でした?」
すかさず後ろに携帯を隠して「いいのよ、別に」と苦笑している。
そこではたと気づいた。新一が事件に呼ばれた…、と言うことはもしかして高木刑事も?…でも、こんな日なんだからちゃんと休みを取ってるだろうし、新一じゃあるまいし…。
「ごめんね、蘭さん」
「えっ?」
「工藤くん、また借りちゃったでしょ?」
「あ、いえ、それは…」
「元はと言えば高木くんのせいなのよねぇ」
「…というと?」
佐藤刑事はふーっとため息を吐く。と同時に携帯が鳴った。たちまち新婦ではなく刑事の顔に戻る佐藤刑事がとても素敵に思えた。相手がこれから夫になる予定の高木刑事だと言うのに、そんな甘い雰囲気など全くない。いつもの彼女だ。的確に指示を与え、凛々しく怒鳴る。けれど電話が切れると、また一つため息をついた。花嫁の顔に少しずつ戻っていく。
「…でも、時間、大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫にしてもらわなくちゃね」
──笑顔!…その笑顔は信頼から来てるの?…その顔は刑事の顔?花嫁の顔?どっち?…どっちもかしら。
「大丈夫よ。きっともうすぐ…、もうすぐ二人で駆けて来るから」
佐藤刑事の笑顔は安心をくれる。その言葉全部を信じられるから不思議だ。
「それに──、きっともうすぐ。蘭さんもこんなウエディング着て、やきもきしなくちゃならなくなるわよっ!」
言われて顔が火照った。
「ま、ま、まだそんな…、ぜ、全然ですよっ」
否定しながらもそんな自分を想像してしまう。ああ、もう、胸がドキドキっ。
そんなわたしを見て、佐藤刑事が更に笑顔になった。そして、わたしの頬にそっと触れた。
「真っ赤になっちゃって可愛いンだから」
そんなふうに言う佐藤刑事のほうが断然綺麗で可愛いとわたしは思った。こんなふうにわたしもなりたい…、心からそう思っていた。
しばらくして駆けて来る二つの影。
佐藤刑事が「ホラね」とウィンクをする。わたしは笑顔で答えて、「きっともうすぐ…」と小さくつぶやいてまた頬を染めた。