彼には言えぬ彼のこと    file.1  作・紗江



鈴木園子38歳。
鈴木財閥の会長の娘にして、エリート実業家の妻。
妻思いの夫と可愛い子供たちと幸せな日々を過ごしている。
鈴木姓のまま変わっていないのは、園子は次女であるにもかかわらず、
可愛い娘を手放したくない父の気持を汲んで鈴木家に入った婿殿の気遣いのためだ。

 「亭主元気で留守がいい〜とはよく言ったものよねvv」
 「やだ、園子。それじゃ旦那様がかわいそうじゃない!」
 「そんなことないよ。向こうだって毎晩遅いくせに
  休みの日はゴルフだ何だって遊び呆けているんだから、
  こっちだって好きな事させてもらわなくっちゃね!!
  別にあたしゃ旦那の飯炊きだけのために存在するんじゃないのだ!」
 「それでなくたって平日はまるまる自由に過ごしているんでしょ?園子はぁ」
 「だってようやく子供が学校上がって手が離れたんだよ!
  これからは自分のために時間を使わなくっちゃ!」
 「もぉー!園子ったらぁ……」
呆れる蘭を横目に園子はいたずらっぽくウィンクしてみせた。

高校生の頃のままに会話を交わすお相手は工藤蘭。園子の一番の親友だ。
旦那の工藤新一も同じ高校の出身で、園子と出会ったときには既にラブラブな二人であった。
ただし、当時本人同士はまだそれに気付いてはいなかったのだが……

 「蘭てばさぁ。旦那との付き合い何年になる?30年は越えてるんだよね。
  よく飽きないよね。毎日顔つき合わせててさ。厭になることなんてないの?」
 「えーっ?なに言ってるのょ。幼馴染だから付き合いが長いのはあたりまえじゃない!
  喧嘩だってしょっちゅうしてるよー。今朝だって塵出しに行くのに私カーラーつけたままだったの。
  知ってたくせに新一わざと教えてくれなかったんだよ。
  お返しにお弁当ののり、くまさんの形にしちゃったー!」
 「それのどこが喧嘩なの?あたしにはじゃれてるようにしか聞こえないよ。」
 「えーーっ?そんなことないよ。私ほんとに怒ったんだからーーーっ!」
 「はいはい。ご馳走様。犬も食わないよそんな喧嘩はっ」

いつまでたっても新婚当初いゃ、恋人同士の頃そのままに仲の良い工藤夫妻に中てられながら
だからといって園子も別に不幸な結婚をしたというわけでもなく、
世間一般には幸せな奥様と呼ばれる位置にいたわけで、
細かい事を挙げればいろいろ文句があったとしてもそれはお互い様。
現状を変えようなどという大きな不都合があるわけでもなかった。

そんなある日の事……
暇を持て余していた園子はノートパソコンの蓋を開けてメールチェックをしていた。
このところ蘭が相手をしてくれない退屈な午後はパソコンに向かって暇をつぶすことも多かったのだ。
 「懐かしーーい!確かこの子高校の後輩よねっ。
  空手部にいたくせに主将の蘭よりもあたしになついてた変な子だったけど元気してたんだー!!
  ……ふーん。空手仲間のBBS作ってるのかぁ。URL書いてあるから見に行っていいのよね?」
早速クリックして接続してみる。
 「わぁー。みんなパパやママになって、仕事も中堅どころって感じ?頑張ってるのねー!」
園子自身は空手部とは無縁な奇術愛好会に籍を置いたりしていたが、
親友の蘭が主将だったおかげで空手部のメンバーは大概知っている。
それどころか、蘭たちが対戦した他校の生徒まで知っていたりした。
懐かしい面々に高校時代に戻ったつもりで友達や自分を思い出しながら読み進む……
 「あーもうこれで最後のカキコだーっ。これ読んだらあたしも一言足跡残しちゃおうかなー。
  みんな私の事なんて覚えてるかなぁ……?」
独り言を呟きながら最後の枠へと目を落とす。

  ………P.S.ご存知かも知れませんが京極真さんが結婚されます。挙式は来月だったと思います。
  詳しいことがわかったらまたお知らせします………

一番下の消えそうな位置にかろうじて留まっていた一文に園子は凍りついた!
一瞬息がとまり、鳥肌が立った!!
 「京極さんが、真さんが、結婚する──」

 

2000.10.14

file.2

 

園子ちゃんファンの方には申しわけないかも?のものを書き出してしまいました。
設定はかなり変えて園子ちゃんに演技してもらおうと思ったのですが。
後半はかなり泥沼化しているので日の目を見ないままに
葬り去られるかもしれません。