て
手をつないで目を閉じて
トロピカルランドのスケートリンク。
わたしははじめてのアイススケートに胸を躍らせていた。つい颯爽と滑る自分の姿を想像し、それに酔いしれて笑みが零れる。
「歩美ちゃん? どうかしたんですか?」
光彦くんに声を掛けられて我に返った。
今日はみんなでスケートに来ている。わたしと哀ちゃんだけが初滑りだった。胸がドキドキする。
不意に視界に入ったコナンくんの様子がどことなく変だったから、ちょっとだけ心配になった。もしかしてコナンくんもスケートはじめてなのかな?
「どうかした?」
わたしより先に哀ちゃんがコナンくんに声を掛けてしまう。わたしは気になって耳をダンボにした。
「別に」
「遠くを見てたみたい。……そうね、遠い過去ってとこかしら? でも、過去を思うならもうちょっと楽しそうな顔しなさいよね?」
「……ほっとけっ」
意味深な会話の中身が見えない。時々あの二人は遠い存在になる。そのたびすごくさびしくて、なんだかとても嫌な気持ちになる。まるで裏切られたみたいな。
哀ちゃんが行ってから、わたしはコナンくんに声をかけた。
「コナンくんもスケートはじめて?」
「ううん、前に──、蘭姉ちゃんたちと一度、ね」
「そうなんだ。じゃ、滑れるの?」
「まぁ、そこそこ。歩美ちゃんは今日はじめて?」
「そう。…ドキドキするよぅ、大丈夫かな?」
「大丈夫大丈夫」
「ホント? コナンくん一緒に行ってくれる?」
コナンくんの返事が少し遅れたのはどうしてだろう。
「うん…、いいよ」
靴を履き替えてリンクに出た。恐る恐る手すりに掴まると足ががくがくと震えた。手すりに掴まったままそぅっと滑ってみる。こんな感じでいいのかな? よくわからないし、何だか今にも転びそうで。
コナンくんは、わたしを待ってゆっくり隣を滑っている。
「最初はつかまったまま滑ってたらすぐに慣れるから」
そう言われてこわばった顔のまま、なんとかコナンくんに微笑んだ、その瞬間──。
「きゃぁぁぁぁ!!」
叫びとしりもちは同時だったと思う。立ち上がろうとしたけど上手く行かず、更に転んだ。冷たいし痛いし泣きたくなる。慌てれば慌てるほどじたばたとしてしまって上手く立てない。
そうしたら、コナンくんが手を差し出してくれた。
「ホラ」
そう言って。
「ありがとう」
わたしはその手をゆっくり掴んだ。うれしくて余計涙が出そうで、わたしはぎゅっと目を閉じた。涙なんて我慢しなくちゃ。
「一人で頑張って一周してくるよ、わたし。だから、コナンくんは先に行って。……わたしだったら大丈夫だよ。これでも運動神経はいいんだから」
なんでだろう、弱虫だと思われたくない。一人じゃ何も出来ないなんて思われたくない。強がりでもそれでも。
コナンくんは不思議そうにわたしを見た。そうして笑った。
「じゃあ、ちゃんと滑れるようになったら一緒に滑ろうな?」
わたしはすかさず「うん!」と大きな声で返事をした。うれしかった。
手を振って先を滑るコナンくんの後ろ姿。早くて遠い。
でも、絶対追いつくんだから。必ず追いつくんだから。
そして今度は、手をつないで目を閉じて──。
おしまい
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