す
澄んだ瞳の奥の奥
突然の雨に駆け出して、それでも大降りになってきたので仕方なく適当な雨宿りの場所を探す。
可愛い雑貨屋さん、見っけ。
たどりつくと、同じように駆けてきた女性がいて、初対面なのになぜか目で笑い合ってしまう。不思議、こういうときって妙な連帯感が生まれるものなのかな。
「天気予報当たりましたね」
思わず彼女に声をかけてしまった。
「そうね…」
穏やかな笑顔がやさしそうで、なんだかホッとする雰囲気。
「…え?あれ?…でも天気予報知ってるのに傘忘れたの?」
そう聞かれて苦笑した。
本当は朝、ちゃんと傘を持って出た。折りたたみを。そうして、一緒に歩く眼鏡の少年に「あら?傘は?」って聞いたら「持ってない」って言うから、ついそのまま渡しちゃったのよね。あ、その眼鏡の少年っていうのは弟じゃないんだけど、しばらく一緒に暮らしてて──、そうねぇ…不思議な子なの。小学生に思えないくらいよくモノを知ってて、頭がよくて、勇気があって、危険なんてかえりみず…。
そんな話をすると、彼女はくすっと笑った。「わたしも一緒」と。
もちろん、それは眼鏡の少年ではなくて、ご主人らしいけど。
ふと、彼女の手にあるモノに目が行く。
「…それ、なんですか?楽器?」
「ああ、これね、胡弓なの。最近習いはじめたばかりだけど楽しいのよ」
「へぇ…、聞いてみたいな」
「だったら、えーっと…」
彼女はバッグを探り紙を取り出した。どうやら胡弓教室の案内のチラシらしい。
「ここ。見学はタダだから遊びにおいで」
言ってから悪戯っぽく付け加えた。
「よかったら、その眼鏡の少年も一緒にね」
そうこうしていると、通りの向こうから走ってくる影。
「あ」
彼女が目を丸くしてその影を見ている。そして、やわらかな笑顔でその影に手を振った。
きっと、彼女のご主人だ。それがわかってわたしもうれしくなって、「やさしいご主人ですね」と茶化すように言った。言った途端、少しさびしくて、多分妬ましい気持ちまで生まれて、切なくなってしまった。
いいなぁ…。迎えに来てくれる人がいて。
彼女がご主人の傘(本当は彼女の傘なのね)に駆け出してから、不意に振り返った。
「あなたもお迎えが来たみたいよ?」
…え?
雨の向こうに姿を探す。
わたしは誰を探しているんだろう。
そこに立っていたのは、眼鏡の少年。
そう、…わかっている。きっと来てくれるって信じてたのは彼。
澄んだ瞳の奥の奥。わたしを見つめてくれるその瞳をわたしは信じて待っていたのかもしれない。
おしまい
*お誕生日おめでとう!!ちゃま!!…プレゼントに…なんて言えるものでもないけど、そう、笑顔の素敵なこの女性はちゃまだったのでした〜。いつか胡弓聞かせてくれっ!!(ななみん)
>>お題