せ
背中にキミのぬくもりが
寒い…。10月に入ってから、夜が一段と冷えるようになってきた。昼はまだまだあたたかく、ちょうどよい季節なんだけど。
幼なじみである服部平次と結婚したのがちょうど一年前。ついでに言えば、結婚とともに住み慣れた大阪を離れ、今は東京。友達がいないわけでもないけど、やはり心細い日々を過ごしていた。というのも、平次は仕事柄──大阪府警に勤めているのに東京に来ることになるとは…──出て行ったらいつ帰ってくるのか…。いつも事件に飛び回っている。
そして今日もまた。非番で休みだったはずなのに緊急の電話が入って、いつものように飛び出していった。
出来るだけ早く帰るって言ってたけれど、アテにしてはいけない。
時計を見るたびため息ついて、思わず愚痴の電話を蘭ちゃんにぶつけたりしながら夜が更けた。蘭ちゃんは、そう、こういう愚痴には一番の理解者で、つまり同じ思いを共有しあっているという…、お互い帰らぬ人を待つ夜が多いのだ。
今日は帰るのか、明日になるのか。…連絡はない。連絡する暇なんてないんだろうな。それもいつものこと。
一人のんびりお風呂に入って、ワインを一口。こうでもしないと眠れそうにない。
一人ベッドに入って、丸くなる。
あんなに温まったはずなのに、それでも、今、寒い…。
(帰られへんなら帰られへんってヒトコト電話でもメールでも入れてくれたらええのに。いっつもいっつも…。もう帰ってきても無視や、無視っ!)
…わたしのさびしさは怒りに変わっていき、堪えても涙が零れた。
眠れないけど、無理にでも目を閉じて。
そうして少しうとうとしているとき、玄関から物音が聞こえた。
(帰ってきたんやろか…。今、何時?…うわ、3時半っ?)
物音は平次に違いない。電気をつけて、冷蔵庫を開けた。缶ビールを勢いよく開けてぐびぐびと飲んでいる。仕事のあとの一杯はきっととても美味しいのだろう。
おかえりって言いたいけど…。でも。
(帰ってくるなら来るで連絡くらいしてくれてもいいのに…)
怒りの続きがおさまらなくて変な意地を張ってしまう。
わたしは丸くなったまま平次を待った。
わたしがどんなにさびしくて心細い思いをしていたか…わかってほしいのに。それを言わないわたしがいけないのかもしれないけれど。
しばらくして、平次はパジャマに着替えて、そうっとベッドに入ってきた。寝ているわたしを気にしてか、特に声もかけてこない。そうして、とても自然に足先が触れ合う。あたたかさが流れてきて、なんだかホッとする。
背中を向けたままだけど、そこに平次がいるだけで、ぬくもりを感じられる。眠れそうな気がする。
なんて単純なわたし。そのあたたかさに心まで溶けていくみたい。
あたたかい…。こうしてそばにいるだけで。
だからずっとずっと、そばにいて欲しいと…、言葉に出来なくて、思わず手探りで平次の手を握り、そのままわたしは眠りに落ちた…。
おしまい
*遅れてしまったけれど、ゆきちんに捧ぐ。結婚記念日おめでとうっ。 ずっと仲良く!(ななみん)
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