オトナにならないで


例えば、お風呂上りに濡れた髪、タオルで拭きながら、
頬もピンク色で瞳が少し潤んで見えて。
ハッとして目を逸らした後、
それでも目を離せない自分に気づいて慌ててまた目を逸らす。

例えば、外から帰って換気扇からの匂いに癒されながら玄関のドアを開けると、
テーブルに突っ伏してうたた寝してる。
宿題の途中で開いたままのノートと参考書が雑然としていて、
思わず残りの問題をこっそり解いて書いておく。
密かに満足しながら、どこか空しい。

例えば、朝家を出て、いつもの角で手を振って別れる。
向かう先が違うこと、たったそれだけ。
たったそれだけ。

この距離は近くて遠い。
計り知れないほどに、この距離は永遠に似ている。

例えば、繋ぐ手。その大きさ。
例えば、微笑み。空を背景に遠いところにある笑顔。

心がざわめく。傷ついていく。
どうかもうこれ以上、キミだけオトナにならないで──。
追いつけなくて切なくて。


>>お題