ぬ
盗みたいのはキミのココロ
蘭と園子と一緒にスケートに来ていた。オレはまぁおまけだ。
スケートに行くんだと聞いて、子どものフリで「ボクも行く〜っ」と地団太を踏んで見せた。蘭は苦笑しながら「いいよ」と言ってくれた。
にしても園子といい蘭といい、その格好はなんだ? いくら自信があるってったってミニスカートでスケートとはいい度胸だ。ってか、この二人前に来た時も確かこんなだったっけ。以前事件に巻き込まれた時も。
そういえば中学の頃、ミニスカートで滑る蘭が気になって気になって滑っていても気が気じゃなかったこと、覚えている。今は別の意味で気が気じゃない。オレのこの位置からこの角度でそのスカート…ちょっと刺激強すぎるんですけど?
って言ってもオレ、今コナンだからな。
ここトロピカルランドのスケートリンクは、7時から 上がる花火の特等席となる。蘭と園子もそれを承知しているから、時間が近づくと気もそぞろになってきていた。そうして、園子が10分前に「ちょっとトイレー」と行ってしまって、二人で花火を待つことになる。
「前にね、新一とも見たんだよ、花火」
蘭が口を開く。オレの話をはじめるから黙って聞いていた。
「花火は中学の時はじめてだったかなぁ。さすがに小学生の時はそんな時間までは二人で遊ばせてくれなかったし。──なんかね、花火を見ただけなのに、ちょっと大人になった気がしたんだよね」
そう言って蘭は頬を染めて笑った。
「普段は別になんとも思ってなかったんだけど、新一ってさ、スケート来るとすっごくやさしくなるんだよね。なんでだろ」
…そうかな?と首を傾げてしまう。
「学校でなんてからかわれるから隣を歩くんだって嫌がってたこともあるのに、スケートに来ると手だってつないでくれるし。何度もさりげなく庇ってくれたこともあるし…」
懐かしそうに話す蘭を見ていると辛くなる。なんでそんな思い出話ひとつするのにうれしそうな顔するんだ? しあわせそうに笑えるんだ? 工藤新一はずっとおめぇのこと待たせっぱなしなんだろ? 放ったらかしなんだろ? ヒドイよなぁ、なのに待っててくれなんて我侭言ってさ。なのになんで蘭、おめぇはそんなに大事にしてくれてるんだ? あんな奴のことをよ?
「口は悪いけどさ、いいとこあるんだよね、新一。カッコつけでさ、自分勝手でさ、あと女たらしでさ……」
へ? なんだその女たらしって。
「成績も優秀で運動神経もよくって、何をやっても目立っちゃって、ホント、どんどんわたしから遠い存在になってって…やんなっちゃう」
次から次へと出てくる蘭の中の工藤新一。聞いてて耳を塞ぎたくなってくる。
「幼なじみなんて損だよね。……当たり前の距離が遠ざかっても近づいても怖くってたまらないんだよ。…ってこんなこと言ってもコナンくんにはわかんないよね」
ふと。妙な心地になってしまう。
工藤新一なんて自分勝手なそんな奴になんでそんな執着すんだよ。思い出話にしあわせそうな顔をしているだって? さっきそう見えた笑顔は今は幻だった。…だってホラ、それはどう見たってさびしそうな顔じゃないか。さびしそうで泣きそうな、とても心細げな表情だろ?
もう…そんな奴のこと思うなよ──。
オレが守るから。江戸川コナンがさ。
もういっそオレを見て。
いつもそばにいる。離れない。この手を離さない。オレがいる。オレがいるからさ。もう工藤新一なんて──。
バカなことを。
オレは工藤新一だ、誰がなんと言おうと。
こんなこと思っちゃいけない。気弱になるな。
それでも、今日だけ今だけほんの一瞬だけ。
盗みたいと思った、蘭のココロ。
オレは蘭の手を取って、
「滑ろう、花火まであと一周」
オレの心はコナンに逃避する。蘭はそれでも逃避はしないだろう。その強さがオレに強さを与えてくれる。
だからこうして強く手を握ってて欲しい。それだけでいいから。
花火が上がった。
遠くから手を振りながら園子がこちらに向かって駆けてきた。おしまい
>>お題