ノートの隅にあった文字

 いつもと変わりない朝だった。
 朝食を作り、お父さんやコナンくんを起こして「おはよう」と言う。寝ぼけた二人は同じような顔をして起き出して顔を洗って歯を磨いて。どういうわけか同じ場所に寝癖がついていて、今日は朝から笑ってしまった。
 いつも通りに家を出て、いつも通りに学校へ向かう。コナンくんとは途中の大通りの角で別れて手を振って、少し行くと園子の背中が見える。
「おはようっ」っていつもみたいに声をかけると、園子の笑顔が返ってくる。
 教室に入って、窓際の席から空を見上げて。秋の青空はなんて澄んだ青をしてるんだろうなんて思いながら、ゆっくり流れる雲を追いかける。
 ふっと斜め後ろを振り返って、アイツがいないのも昨日と同じ。いつも通り。

(一体、どこ行っちゃったのよ…。)

 今更だけど、何度でもアイツを恨めしく思う。
 いつのまにか、いないことが日常になってるなんて。

(帰って来ないかな…。)

 あり得ないとどこかで思いながらも願ってしまう。
 そんなふうに空を見てアイツを思うことすら、いつも通り。

 そうして放課後になって部活に顔を出して汗を流す。
 帰る頃はちょうど夕陽が沈む頃で、赤く染まった空がとても綺麗で、ぼんやり提向津川のそばを歩く。
 晩ご飯の買い出しに寄ってから、ようやく家に帰り着く。
 コナンくんは先に帰っていて、リビングで宿題を広げたまんま居眠りをしている。前の晩、また遅くまで推理小説でも読んでいたからに違いない。まるでアイツみたいに。
 その隣にわたしも宿題を広げて。眠り込んでいるコナンくんの眼鏡をそっと外して髪を撫でた。テーブルに広げてある漢字ドリルの文字を追ってふっと微笑む。
 宿題を片付けながら、わたしもまた欠伸を噛み殺していた。わたしも昨夜は長編恋愛小説につい夢中になってしまっていたから遅かったんだと思い出す。

 そして、いつのまにか夢を見ている。
「蘭っ」
 呼ばれて目覚めるとそこにアイツがいる。そんな夢。
 あ、帰ってきたんだ…。悠長にそんなふうに思うだけのわたし。
 いっぱい言いたいことがあるはずなのに何も言えず、うれしいのにそれもまた言葉に出来ない。
 何か言ってるのに、アイツの口元は動いているのに聞こえない。もどかしい。
 何?
 何しゃべってるの?
 え?…もう行くの?また行っちゃうの?
 ハッと目覚めるともうどこにもアイツはいない。
 眠っていたはずのコナンくんもいなくて。

「あれ?」
 時計を見ると半時間ほど眠っていたみたい。
 ただ、残されていた目の前の、綺麗にラッピングされた包みに心臓の鼓動が早くなった。

(覚えててくれたんだ…。)

 そして、広げてあった宿題の英語のノートの片隅にその文字を見つけた。

『Happy Birthday!!』

 忘れるはずないよ、アイツの癖のある文字。
 夢だけど、夢じゃなかったんだね。
 プレゼントを開けてみる。可愛い羊のアイピローと、新一お勧めの推理小説が出てきて、うれしくてつい、それを抱きしめてしまう。
 そう、今日は特別な日。わたしの誕生日──。

 その後、お父さんはわたしのためにケーキをお土産に買って帰ってきた。
 コナンくんは「ごめん、何も用意してなかった」と頭を掻いて目を逸らした。

 いつもと同じ毎日なんてことは決してない。
 日々、移り変わっている。
 だから、信じよう、アイツが明日は帰ってくると──。

おしまい

 

*10月15日はぱうち〜のお誕生日なのね〜!!おめでとう!!…そんなわけで、ぱうち〜に捧ぐ。


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