眠りの中でキミを待つ

 結婚して3年とちょっと。傍らにオレと蘭の娘がいて、小春日和のリビングで、オレは相変わらず推理小説を読んでいた。
 今日はめずらしく蘭が出かけていて、俺は子守と留守番。こんなのはとてもめずらしかった。なんでも高校の時の空手部の同窓会とかで昼から出かけている。そんなに遅いわけでもないのに、じりじりと待つ時間は長く感じる。何度も何度も時計を見て、携帯を確認して、ため息をついた。
「お母さんは?」と娘もうるさかったが、今は夢の中。ぐっすりとソファで眠り込んでいる。そうっとベッドに運んでやらなければ。

 寝室は二階。今はダブルベッドに娘を真ん中にして三人で眠っている。もう少し大きくなったら別の部屋にと思っているんだけど。
 そっと娘をベッドに横たわらせて、オレもその傍らに腰掛けた。しばらくここで本でも読んでいようか。
 ふとベッドの脇のチェストに目をやると、見慣れないものがあった。オレはいつも帰りが遅いから寝室の灯りがついていたためしがなかったのだ。だから気づかなかった。
 ライト、のようだ。だけど別の装備があるようで、ものめずらしさにそれをあれこれ触ってみた。ライトの隣に小瓶があって、アロマという文字が見える。…ああ、なるほど。すぐに理解できた。要するに香りを発するライトってことか。こう書くとなんとなくロマンのカケラもなくなる感じだけど。
 ライトはステンドガラスのように透かしで色がついていた。四つ葉のクローバーがモチーフで、カラフルだけど穏やかな色合いだ。オイルをガラスの器に落として点灯してみた。 ほのかな光が心地よい。そしてこの香りは?…瓶を確認すると「ハッピータイム」とネーミングされている。とても甘い香りだ。
 更に、オレはライトの下の引き出しにある説明書と一緒にカードを見つけた。そこに書かれた「ハッピーバースデー」を見て、オレは「ああ」と声に出した。

 昨日は蘭の誕生日だった。
 もちろん忘れてなどいない。だけど昨日は仕事が立て込んでいて、携帯で「おめでとう」って言うのが精一杯だった。「当日じゃなくて悪いけど」と明日は一緒に食事しよう出かけようと話してある。
 でも──そうだよな。今日だって朝は会ったんだから、たとえ寝ぼけてたとは言え一言も誕生日に触れないままなんて。蘭はどういう気持ちで出かけていったんだろう…。悪いことしたな。
 ごめん、ごめんな、蘭。

 アロマライトの香りが気持ちを穏やかにしてくれる。
 今からだって遅くない。
 きっともうすぐ蘭は帰ってくる。
 ホラ、微かに足音が。玄関のノブを回す音が。ドアの軋む音が。

「誕生日おめでとう」

 そう言って、有無も言わせず抱きしめてやれっ。



おしまい

*10月31日はわかにゃんのお誕生日なりー(^^)。おめでとうおめでとう!! こんなのでなんですが捧げます…。
この50音のお題と話の内容…食い違ったぜっ(笑)。予定ではそのまま新一は眠りに落ちるはずだったのですが…、ははは。気にしないでいこうっ、ドンマイドンマイ!(←自分で言うか)


>>お題