メリーゴーランドみたいに

 ──見つけた。コナンくんだ。
 さっきコナンくんを訪ねて蘭おねえさんのところに行ったら留守にしているって言われて、探し回ってやっと見つけた。
 提向津川のほとりの公園のベンチで夕陽に照らされたコナンくんはどこかさびしそうで、声をかけるのをちょっとだけためらってしまった。
「コナンくーん」
 手を振る。
 すぐにわたしに気づいてコナンくんは笑顔を見せた。
「そんなところで何してるの?」
 わたしはコナンくんの隣に座り込んで、膝の上にあるそれに気づいた。
「わぁ、コナンくん、チョコもらったんだ〜っ!!」
 膝にあったのはサッカーボールの形のチョコ。カラフルなネットに入っていてとても可愛い。
「うん。蘭ねーちゃんからね」
「なぁんだ。蘭おねえさんか」
「歩美ちゃんも一緒に食べる?」
「え? でもコナンくんがもらったんでしょ?」
「うん。でもオレ一人じゃ食べきれないし」
「そ、そう? じゃ一個」
 手を伸ばして一つチョコを摘み上げた。それを食べようと包みから取り出していて、ふっとコナンくんを盗み見た。
 …なんでそんなさびしそうなんだろう。いつものコナンくんらしくないや。なんて思いつつチョコを口に放り込んで満足。
「あま〜い。美味しいね、これ」
「うん…」
 曖昧な返事。ホントに元気ない。それはまるで…、
「どうしたの? コナンくん。チョコもらったのに失恋したみたいな顔してる〜っ!!」
 笑い飛ばそうとそう言ったのに、コナンくんはちっとも笑わなくて、ううん、無理して笑うのがなんだかちょっと痛々しい感じがした。
 …そんなのおかしいよ。だって、コナンくんって蘭おねえさんが好きなんでしょ? それでチョコもらってどうしてそんな顔するんだろう。どうしてうれしそうにそれ食べないんだろう。
 わたし、知ってるんだから。コナンくんは蘭おねえさんが…って。
「もう一個いい?」
「どうぞ」
「なんでコナンくんは食べないの?」
「え?…だから食べ切れなくて」
「ふうん…、せっかくもらったのに」
「うん」
「変なの」
「え? そうかな?」
「蘭おねえさんからなのに。うれしくないの?」
「…うれしいよ」
 全然うれしそうじゃないよ、それ。
「やっぱり返す」
 もう一個と言って手に取ったチョコを戻した。
「だって、もしもわたしのあげたチョコレートを、…ほかの女の子に食べられちゃったら、それやっぱりヤダもんね」
 コナンくんは、何を言っても心ここにあらずって感じで。
 わたしはこっそりポケットに入れてきた小さな包みを出しそびれたまま。
 まるでメリーゴーランドみたい。わたしはコナンくんを追っかけて、コナンくんは蘭おねえさんを追っかけて、蘭おねえさんは今はいない新一さんを追っかけて。ぐるぐるぐるぐる。でもいつまでたっても届かないの。
 はじめて買ったチョコなのにな。
 なんだかわたしまでさびしくなっちゃった。
 夕陽が落ちていく。
「暗くなってきたね…」
「うん。…あ、歩美ちゃん、帰らなくて大丈夫?」
「うん」
 まだ少しだけ暮れかかる空が綺麗だ。
 日が暮れても、また明日がやってくる。日は昇って、また日は沈むんだよね。そんなふうに毎日毎日。
「だけど、昨日と全く同じの今日なんてないし、今日と全く同じの明日なんてないんだよね。…そうなんだよね」
 漠然としたこと、とても当たり前のことを、ふと声に出して言ってしまっていた。
「メリーゴーランドじゃないよね…きっと」
「え?何?」
「…ううん、なんでもない」
 少しだけいいことに気が付いたとわれながら思う。
「コナンくんも元気出してね。違う明日がきっと来るから」
 わけわからないという顔でコナンくんは頷いて。
「これ、あげる」
 チョコの包みをようやく取り出してコナンくんに渡した。…渡せた。
「え?」
 意外そうな顔をしたコナンくんだったけれど、やっと微かに笑ってくれた。「ありがとう」…そう言って。
 わたしはちょっと照れて笑って「じゃあね」と手を振った。
 提向津川のほとりを走り抜ける。
 頑張れ、コナンくん。頑張れ、わたし。とにかく前を向いて歩いていかなくちゃね。

 おしまい


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