け
軽快なリズムにのって
学校帰り、蘭と二人歩いていた。
今日は七夕。なんとなく世間様ではロマンチックな日…?
「はぁ…、七夕だよね、今日」
ため息混じりにつぶやいたのは、ちょっと蘭の反応が知りたかったからかもしれない。
「園子ったら、なにため息つくことなんてあるのよ」
ちょっと笑って見せて、ふっと悲しそうな目をしたこと、わたしは見逃さないよ。
「だって…」
ああ、ここから先愚痴しか出てこない。だから言葉を切った。
「わたしたちにも七夕、…せめて七夕、来るといいのにね」
冗談めかして言ってるけど、絶対マジだね。
せめて七夕…、ここらへんに哀愁感じるよ、蘭。
「もう、つまんなーーーいっ!! もういっそザーッと雨でも降っちゃえ!!」
半ばヤケ。
だけど、本当に降って来るなんてね。
「あー、もう!! 園子がそんなこと言うから!!」
突然降り出した雨に走り出す。こんな日に限って二人とも傘を持っていない。
走りながら蘭が言う。
「せっかくの七夕なのにね…」って。とても悲しそうに。
…だって、関係ないじゃん。織姫と彦星なんてさ。七夕ったって、あなたの新一くんが帰ってくるわけでもないんでしょ?
「もう、暗いなぁ、蘭は…」
「え?そうかな」
「ダメダメ、そんなんじゃ」
「何がダメなのよ」
「だからね、モノは考えようって言うじゃん?」
「はぁ?」
わたしは足を止めた。
蘭はそれに気づいて振り返った。
「雨なんだからしょうがないじゃん」
「え?」
「だからね、雨で会えなくなったって思えばさ、雨のせいに出来るじゃん」
「…?」
「まぁ、雨に悪役やってもらうのは申し訳ないけどさ」
蘭は不思議そうにわたしを見る。
「だから。ね?」
「雨だからしょうがないじゃん…か」
「そうそう。織姫と彦星には悪いけどね」
蘭は天を仰ぐ。
「雨に感謝…」
そう呟いた蘭にグッと来た。
もう出来るなら、わたしが蘭を抱きしめてあげたいくらい。
「だからさ」
上手く言葉に出来ないから、わたしは蘭の手を取った。
「走ろう!!」
「え?」
「とにかく突っ走ろう。きっと気持ちいいよ」
雨から逃げるために走るんじゃない。軽快なリズムにのって、わたしたちは雨を楽しむんだ。
「園子、サンキュ」
笑顔の蘭がわたしを追い越していく。
そりゃもう、あなたの体力にはついていけないってば。待ってよ、蘭!!
ふと見ると、傘を抱えた生意気なガキんちょがそこに立っていた。
そいつがまるで彦星に見えたなんて言ったら、蘭、笑うよね、きっと。
ま、とりあえず、笑顔になった蘭に会えて、わたしはとても満足なの。
…と、二人をしばし眺めながら、一つため息。
「雨に感謝……か」
ふと空を見上げる。
ああ、何のために空を見上げるのか、やっとわかった。
でも大丈夫。わたしもきっと笑えるから──。きっときっと。軽快なリズムにのって。
おしまい
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