え
エンドロールが終わるまで
新幹線が東京駅に滑り込む。
手荷物をまとめながら、わたしはそっと隣の蘭を見る。
待つことをちっとも苦に思わないなんてホントかしら?
わたしは──そんなふうに考えられないなぁ。
毎日でも会いたいもん。
そりゃ、待った分、逢えた時の喜びって大きいのかもしれないけど、そんなの、そう言い聞かせて自分を納得させてるだけって思ってしまう。──なんてね、わたし妬んでるだけか。
「園子、行くよ?」
すでに通路を歩き出そうとしている蘭が振り返る。
「あ、行く行く」
慌てて蘭の後ろにくっついた。
その後ろ姿を見て、また続きを考えている。
記憶にないくらいの逢瀬だったのに、それでもこんなに幸せそうに出来るなんてどうして?そんな少ししか姿を見せなかった新一くんに怒りもしないなんてどうして?
納得出来る蘭をわたしは納得出来ないでいる。
ねぇ、どうしてよ…。
知る術が欲しい。
今すぐここに真さんが来てくれたら。
そう考えてからそれが空しいことだと自嘲する。
新幹線を降りて携帯を取り出した。
真さん、真さん…。握り締めて心で叫ぶ。
「あ…」
蘭がいきなり足を止め、その背中にぶつかった。
「何?どうしたの、蘭…」
言いながら顔を上げると──。
浅黒い肌に満面の笑み。人ごみの向こうにいてもそれが誰だか一目でわかる。手を振りこちらに向かってくる。
今度会ったら、会えなかった不満をいっぱいいっぱいぶつけてやろうって思ってたのに。恨み言をいっぱいいっぱい言うつもりでいたのに。
やだ、もう。
ただ──逢えたことが嬉しい。
真さんのばかっ。いきなり現われるなんてズルイよ。反則だよ。
もう目の前に真さんが立って、照れたように頭を掻いて笑っている。
聞きたいことだって山ほどあるよ。
どうして今ここにいるの?誰に聞いたの?…だって新幹線の時間なんて特別決めてたわけじゃなかった。何時から待ってたの?
頭は混乱するけど、ただ嬉しくて。
「お…おかえりなさい」
それだけ言って笑ってた。
「ただいま」
と真さんが言って、だけど本当はそれ逆じゃないかと気がついて可笑しくなってまたフッと笑う。
隣にいた蘭が、
「じゃ、ここでね」
と背中をポンと叩いて行ってしまう。
その隣にいたコナンくんがニッと笑った姿がなんだか小生意気で憎らしかった。
さっきの答え、半分くらいわかった気がする。
だけどね、蘭、やっぱりわたしは待ってるだけなんてイヤ。
我侭いっぱい言って、恨み言だって吐いちゃうんだから。
わたしの我侭の半分くらいでも蘭に分けてあげたいよ。
ほんっと、もっと我侭になってもいいと思うんだよ、蘭。
それとも…
行き過ぎた蘭とコナンくんの後ろ姿を追う。
微笑合って手を繋いで…。
いつもの二人だよね。相変わらずだよね。そう思いつつ、わたしなりに推測してみる。
案外、コナンくんは蘭を支えてるのかもね──なんて。はは、思い過ごしかしら?
そして。
わたしは真さんと歩き出す。
話したいことがいっぱいあるのよ。行って来たばかりの京都の話とかね、大阪の友達の初恋の話とかね、蘭が──そう、新一くんに逢えた話とかね。
だけど今は言葉より、ついつい笑顔だけを送ってしまうのはなぜなんだろう…。
おしまい
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