*この話は、はっきり言って100パーセントわたしの創作ではないのよね。某み●ゅの同名タイトルの続きで、お誕生日にたった一冊作って捧げた一品です。そこんとこよろしく。
新一がここにいる。ただそれだけがわたしの幸福──。
しあわせの裏条件
「アイシテル」
引き寄せられて囁かれたその言葉に顔が火照る。いつになく熱い視線にうろたえる。
「し…新一?どうしちゃったの?」
返事の代わりに唇を奪われて引き込まれていく自分を感じる。…だけど、ダメ!!ちゃんと聞くこと聞いておかないと。唇を離して体を離す。
「…大丈夫なの?右手怪我したって聞いた。…手当て、ちゃんとしたの?病院にも行ってないんだって?どうしていつもいつもそんな無茶ばっかりするのよっ!!」
次々と出てくる言葉はいつしか涙声に変わっていく。
「…ごめん、心配かけて」
「もぉ…」
「でも、大丈夫だから」
と振り上げた右手から血が滴った。
「やだ、もう!!ちゃんと止血出来てないじゃないっ!!」
慌ててわたしは救急箱を取りに走り手当てに掛かった。
「深いよ、これ…」
傷口を見て顔をしかめた。
「病院行ったら確実に縫われるな!!」
自信満々にそういうことを言うから、逆に呆れて笑ってしまう。
「ホントだよっ。…それにもしもこの傷が、」
言いかけて口を噤んだ。…考えたくない。刺されたのが手じゃなく心臓だったら……。この世から新一がいなくなってしまうなんてこと……。
「はい、出来上がり」
何とか包帯を巻いて格好はついた。でも、化膿したりしたら大変だからやっぱり病院に行った方がいいわと新一に釘を刺した。
「なぁ、それよりさ。このネクタイきつくって…」
右手が使えないからネクタイも解けないんだとため息をつく。
仕方がないので新一の前にひざまずいてネクタイを解く。ついでに一番上のボタンも苦しいんじゃないかと外す。…と、
「なんなら全部脱がしてくれてもいいんだけど?」
耳元で囁くからハッとした。
「バカッ!!」
ソッポを向いて頬を染める。
だけど、そこはまだ新一の守備範囲だと言うことをわたしは忘れていた。そして、その左手がまだ健在と言う事も。
後ろから左手だけで抱きしめられた。その強さに驚いた。
「…何する…の…」
振り返った時には唇を再び塞がれていたから、今度こそ新一のペースに巻き込まれる覚悟を決めた。
「蘭、脱げよ…」
新一が耳元で囁くように指図した。
「全部、脱げっ…」
その口調が次第に強引になることに気づきながらもそれに従った。
自分が脱ぎ終わると、新一のシャツに手をかける。ボタンを一つずつ外していると、その左手がわたしの胸を撫でながらたどる。そしてその先端の硬くなった部分にくちづけを受けた。あっと体を離そうとしたけれど引き寄せられもう一度くちづけられ…。つい声が出てしまうのを聞いて、新一はわざとそこを少し噛んで楽しんだ。
「痛っ!…痛いよ、新一」
抗議すると今度は優しい愛撫に変わり、控えていた声が洩れるのをもう止められなかった。
まだ新一のすべてを脱がせていないことに気づいて、わたしはもう一度シャツに手を掛ける。ゆっくりと滑らせるように脱がせると、現われた腹部の銃創が目に留まり、ふと切ない気持ちが押し寄せてきた。…この気持ちは何?
ゆっくりとその傷に触れそしてくちづけた。
「コナンを思い出してる?」
新一のその瞳にあるのは、それは嫉妬なの?
「コナン君は大切。……でも」
微笑んで言葉を紡ぐ。「新一が好きよ」──と。
先ほど綺麗に巻いたはずの包帯が、何かの弾みでほどけてしまっていた。…そっか、シャツを脱いだ時?もう血は止まっていたから滴ることはなかった。その右手をそっと手にして自分の左の胸に当てる。
「感じる?わたしの心臓の鼓動…」
新一は戸惑いながら頷いた。わたしの胸に新一の血の痕がうっすらと残る。
そしてわたしは新一の左胸に耳を当て心臓の音を確かめる。
ドキドキドキ…。その音の速さ、そして強さに涙が零れる。
「もう、どこにも行かないでね…」
言葉と一緒に涙が新一の胸に落ちた。
「バーロ、泣くんじゃねーよっ。…俺はいつでもおめぇの……蘭のそばにいるからよ…」
新一はわたしの頬を両手で引き寄せてもう一度熱いくちづけをした。
「痛くないの?」
右手を気にすると
「蘭が全部吸い取ってくれたから」
そんなふうに笑うから、わたしも新一と同じように笑っていた。
「バカね…、痛いに決まってるじゃない。こんなに深い傷…」
「…じゃ、痛いの忘れさせてくれよっ」
「え?」
「痛くなくなるくらい気持ちよくして」
いつもなら、もう一度「バカ」と言って笑うところなのに、わたしは素直に言うことを聞いていた。
「言ってみて。どうして欲しい?」
そんなわたしの態度に一瞬怯んだ新一をわたしは見逃さなかった。…そんなところもたまらなく好き。
わたしは答えを待たず新一のすでに固くなったものを手で支え口に含んだ。
「…ら、ん……」
わたしの髪を撫で、新一は吐息を洩らす。
抱きしめてあげたい。包んであげたい。新一の全部を。
言葉に出来ない悲しみや苦しみを分かち合いたい。わたしが新一を癒してあげたい。いつでもわたしがいること、忘れないでね。
「蘭…、俺もう限界…。来てくれよ」
新一の甘い声に誘われる。濡れて溢れるその部分に新一の指が滑り込んでくる。わたしは小さな悲鳴を上げる。こんなに待ち焦がれていたことに気づかなかった。
「すげーな、蘭」
「バカ、何言って…」
「こうして欲しかったんだろ?」
新一の指はわたしを知っている。だからわたしの声を聞いて楽しんでいじめて弄んでギリギリで焦らして。
「新一ぃ…」
わたしは懇願するように新一を呼ぶ。
「欲しいんだろ?」
意地悪に言い放つから憎らしい。
「…乗れよっ」
その命令口調にそれでも頷くくらい、わたしはわたしの限界にいた。まるで包み込むようにして新一を受け入れる。あたたかい。満たされていく。ただ一つになれたことだけで安らかになる。
動きを止めたわたしを新一が突き上げる。少しずつ、次第に大きく揺らして揺らされて、一つに溶けていくような心地になる。
声にならない声がリビングに響く。吐息がいつしか絶叫に近いものになっていき、新一のわたしの名前を呼ぶ声に、心が彼方に連れて行かれた。
「し、しんいちぃ…」
瞬間その快感が頂点に達した。
……ハッとして目を開けた。
「何、これ?」
ここは新一の家、新一の部屋。わたし、ベッドにもたれ掛かって眠ってしまっていた?
じゃ、今のは夢?夢だったの?
どこからが夢?
どれが夢?
全部覚えてる。
新一の声も、手も、唇も、わたしを抱きしめたすべてを。
あれが幻とでもいうの?
立ち上がろうとして目の前のアルバムに気づいた。
そうだ…。新一が怪我をしたと聞いてここに来た。そして駆けつけた時には新一はすでにリビングのソファで寝息を立てていて、そのままじゃ風邪を引くかと思ってここに毛布を取りに……。そうしたら広げてあったこの幼い頃のアルバムが目に入ったんだった。めくっていると心までタイムスリップして懐かしくて愛しくて。気づいたら…………、そっか、寝ちゃってたんだ。
…そういえば、新一っ!!…起きたかしら?
わたしは階下へ急いだ。
すると、まだ眠ったままの新一がそこに──。ホッとしてその寝顔に微笑むとまるでわたしの気配に気づいたかのように小さく「蘭っ!!」と叫んだ。そして、その自分の声にピクリと反応を示し、目を開いた。
「どうしたの?」
新一の目の前でもう一度微笑む。
新一は意外にも頬を染め、わたしをじっと見た。わたしはその視線に自分の先ほどの夢までも見透かされたような気がして落ち着かなくなる。…それはまるでデジャビュ。思い出しただけで、またカラダが熱くなる。
新一が手を伸ばす。わたしの腕を掴んでにやりと笑った。
何が夢かわからないなら確かめればいい。
何度でも幸せを感じればいい。
新一がここにいることが、わたしの幸福なのだから。
引き寄せられて耳元で囁く新一の言葉──、
「アイシテル」
だからもう一度…。
新一に愛されることが、わたしのもう一つの幸福なのだから──。
fin
《あとがき》
夢オチに次ぐ夢オチ。ってわけで、現実バージョンは再びみじゅに任せたっ!!っつーか、これは身内だけで楽しむってどうよっ?(笑)