ふたり
突然の依頼で、正月早々おっちゃんは出かけていった。
少しだけ顔を赤らめて出かけていくおっちゃんは少し気の毒で。
閉まった扉を見つめたまま、二人とも動けずにいた。
二人きりか…
リビングに二人、つけっぱなしのテレビを見ているような見ていないような。
テーブルのお節に箸をつけているようなつけていないような。
和むでもなし、緊迫するわけでもなし。
「ねぇ…」
ふと目の前の蘭が声をかける。
「……」
無言のまま、視線を蘭に移す。
「眼鏡、外してよ…」
「ああ」
そっと眼鏡を外して、それをテーブルに置いた。
「今日はそのまま、新一でいて」
「…う、うん」
曖昧に返事をしながら、俺はどうしていいのかわからないでいる。
「あけましておめでとう…」
蘭はあらたまって挨拶をはじめる。
「・・おめでと」
「今年もよろしく…」
笑顔は、ちょっと無理してる。
「今更、なんだよっ…」
そんな蘭を見たくなくて視線を外す。
「だって。…だって、新一がどんな姿だろうと、
2002年のお正月はたった一度きりなのよ?」
わかったようなそうでないような。
「だから?」
「そんな顔しないで」
…ってどんな顔だよっ。
と俺は自分の顔を手で触れてみる。
そんなふうにしてどんな顔だかわかるはずもないのに。
「一緒にいられるんだもん。…それでいいじゃない?」
…え?…え?
「ふたりでいられるんだもん。それってしあわせだよ?」
さらりとそう言うと、
蘭は顔を真赤に染めてキッチンに立った。
俺好みのコーヒーを沸かしながら、
ヤカンがシュンシュンを音を立てた。
「今年もよろしく」
俺は席を立ち、蘭に呼びかけた。
触れた手は、とてもあたたかい。
多分、
ふたりだと、心すらとてもあたたかくなると俺は照れながら思った。