OH MY LITTLE GIRL
byななみん

 

  THE NIGHT

 今年のクリスマスイブ。元の体に戻ってはじめてのイブ。
 だから、今年は蘭と二人で、なんて考えてたのにアイツときたら。
「イブは、うちでホームパーティしようと思ってるの。新一も来るでしょ?」
 だって。またあの二人のお節介らしい。アイツも懲りない奴だ。
 だいたい、おっちゃんもいい加減「帰って来い」って一言言えば済むものを、いつまで夫婦で駆け引き楽しんでるんだか。
「それじゃ、わたし今からご馳走作ったりで大変だから、先に帰るね。絶対来てね。」
 終業式が終って、のんびり歩いてたら、アイツだけが駆け出して。そして手を振る。
 いいのか?せっかくのクリスマスイブ、こんなんで。
「おい、蘭、ちょっと待て。」
 格好悪いが、引きとめ手首を強く引っ張る。
「なに?いたーい、新一。」
「あのさ。」
「なに?」
「フツーさ。」
「うん?」
「クリスマスって言ったらさ。」
 その時、タイミングよく仲良さそうなカップルが隣を通りすぎる。
「だいたいさ、ホラ、あんな感じでさ。」
「あんな?」
「そうそう、仲良く二人で、な。」
 蘭の顔が、なんだか訝しげだ。
「新一、なんか不埒なこと考えてるでしょ?いやらしーい!」
「な、なんだよっ!」
 顔が火照るのがわかった。
「やだ、真赤なカオしちゃって。」
「うるせー!」
 蘭はケラケラと笑う。人の気も知らないで。
 そういうこと考えるのは不埒か?健全だよな。自然なことだよな。
 …ったく、いつまでこうやってコイツ、オレを上手くかわす気だ?
「そのホームパーティ、途中で抜け出せない…よな?」
 さすがにおっちゃんの前では、それはちょっとやりにくい。
「新一、そんなことばっか考えてないで、勉強でもしてなさい。わたしたち受験生なんだから。」
 コイツ…!
「じゃね。ホント来てね。待ってるから。」
 そして蘭は、行ってしまった。
 ため息。なさけねー。

 そして夜。
 蘭の家を訪ねる。手作りのケーキとそれ風の料理が並び、部屋にはツリーがあって、いかにもそれっぽい。
 だけど、結局、おっちゃんはいつもごとく酔いつぶれ、おばさんは呆れながらも介抱している姿が満更でもなさそうだ。
「ね?最近、二人仲良さそうでしょ?」
 蘭はうれしそうに、笑っている。
 オレは蘭と仲良くしたいもんだ…半ば脱力しながら、まだ二人のイブを妄想する。
 ポケットには、まだ渡していない蘭へのプレゼントも入っている。
 でも、なんかそんな雰囲気でもないか。
「オレ、そろそろ帰ろっかな。」
 ここで期待したのは、「そこまで送っていく」という蘭のコトバだったが。
 もしくは、明日でもいい。かなり往生際が悪いが。
「うん、じゃ、気をつけてね。」
 蘭は笑顔で玄関先までオレを送り、手を振る。
「じゃ。」
 オレも手を軽く振る。
「あ、新一。ちょっと待って。」
 蘭が不意に手を握る。小さな鈴の音が手のひらで響いた。蘭が手渡したそれは、サンタへのとっておきのプレゼントだった。蘭の家の鍵。
「!?」
 これは…そういう意味?
「プレゼント渡し損ねたから。じゃ、ホントに気をつけてね。」
 蘭の笑顔がいつもより少し大人びて見えた。
 なんかドキドキする。

 そして午前0時。オレは、サンタのごとく蘭の部屋へと舞い降りた。

fin

GRADUATION

 いつもいつも、なんだかんだと言っては新一から逃げてた。
 受験生だから。今日はお母さんと買い物に。勉強だったら図書館行こうよ。なんて。
 はじめてキスした日は、もう数ヶ月も前で。
 新一の真剣な眼差しを見ると、もう逃げられないと察していたけど。
 なんだろう?そこから先が怖かった?

 クリスマスイブが今年もやってくる。去年と違うのは、幼なじみでも同級生でもなくなった新一が何かをきっと期待してるってこと。
 もう逃げるのはやめよう。逃げる必要なんてないよね?…だってこんなに新一が好きなんだもん。

 ホームパーティを理由に二人で会うのを拒んだけど、それはクリスマスを口実に一線超えようなんて思ってる新一がいやだから。クリスマスだから、じゃなくて、そうじゃなくて…。そう言うのわかってくれるかな?
 だけど、結局クリスマスを口実にしようとしてるのはわたしの方だね。

 鍵を渡して。わたしのちょっとした決心に気づいた?
 目と目で合図を送りあう。
「待ってるから。」
「待ってろよ。」
 そんなやりとりに後で恥かしくなって、新一が来た時、わたし、どうしたらいいんだろう?

 お母さんを送ると言って、お父さんは出かけていく。きっと今日は帰らない。
 時々、感じてた。お父さんがお母さんに会ってるってこと。
 二人を見送りながら、「わたし、今日オトナになるかもしれない」なんて思って、少し胸が痛んだ。

 ホームパーティの片づけをしながら、まだ点滅しているクリスマスツリーに目をやる。なんだかそれをじっと見つめてると催眠術にかかったみたいに、呆然と幼い頃を思い出す。
 いじわるだけど、頼りになって、いつも守ってくれた新一。ずっと幼なじみでお互いに子供だった。…わたしたち、いっしょにオトナになる?今夜…。
 
 時計を見てはそわそわとする。
 夜の11時。新一は何時に来るんだろう。やっぱりサンタのマネして12時過ぎてかな?
 とりあえず…。
 お風呂に入ってこよう。
 そして、着替えは、どうする?いきなりパジャマじゃ、なんだかね…。
 やっぱり普段着でいよう。
 でも、下着は新品の白。こういうのも下心って言うのかな。…だって、ね…?

 新一へのクリスマスプレゼントは、パジャマにしてみた。しかもペア。わたしは、このパジャマに着替えて、わたしごとプレゼントするんだ…なんて、ちょっとかわいい意味を込めて。
 あ、ドキドキしてきた。何て言って迎えればいい?
 普通にしなくちゃ。いつも通りでいなくちゃ。

 やがて12時。
 しんと静まりかえった部屋で、聞き耳を立てている。
 ちょっとした物音にも敏感になってる。
 階段を駆け上がる足音。それでも忍び足のつもりらしい。
 鍵の開く音。とても慎重に。
 そこで、わたしのドキドキは最高潮になる。

 ノックの音が響く。そこにもう新一がいるんだ。
 大きく深呼吸して、緊張してるなんて気づかれないように、そっとドアを開ける。
 そして、その顔を見ると、わたしは愛しさでいっぱいになった。
 
 待ってたよ…。ずっとずっと長い間。新一のことだけを…。
 …待っててよかった。

fin

 
  I LOVE YOU

 そこは、ちょっと前まで当たり前に出入りしていた場所だった。
 コナンの姿で生活していた日々が、ついこの前のことなのに遠い昔のことにさえ感じる。
 鈴の音が鳴る。そっと鍵をひねって。
 おっちゃんなら、きっと酔いつぶれて寝ているだろうし、見つかりはしないだろう。それにこの鍵を預けたのは、当の蘭なのだから、躊躇することもないはずだ。
 …それでも緊張した。バクバクと心臓が高鳴る。
 今からオレがしようとしてること。これって夜這いって言うんだろうか?でもなんか泥棒の気分。…あ。でもある意味泥棒かもしれないな。盗みに行くわけだ、蘭を。

 そして、ドアが開く。忍び込む。足音も立てないように、冷や汗かきながら。
「お邪魔しまーす…。」
 それでも小声で挨拶してみる。
 蘭の部屋へ直行。当然だ。静かに静かに、そっとそっと…。
 そして、部屋の前で軽くノック。
 うん?反応ないな。寝たのか?…まさかな。
 もう一度、と思ったところで、ガチャリとドアが開いた。蘭がいたずらっぽい目で笑っている。
「ホントに来たんだぁ。」
 それはとてもうれしそうに。でもその意外そうな言い草はなんだ?
「そういう意味じゃなかったのかよ。」
 ちょっと拗ねてみたりして。
「大丈夫だよ。お父さん、今日は帰ってこないし。」
「あ、おっちゃんいねーんだ。…帰らないって?」
「うん、お母さんとこ。送っていってまた飲んで。結局、酔いつぶれて帰れなくなったみたい。」
「…とかなんとか言って。はじめから泊るつもりだったんじゃねーの?」
「それなら、なおのこといいじゃなーい。」
 ともかく二人仲がいいことが、蘭にとってはうれしいことらしい。
「とにかく、座ったら?」
 あんまり広くない蘭の部屋。ベッドの傍らに腰掛ける。羽織って来たジャケットを脱いで、そばに置こうとしたところ、蘭が「貸して」とハンガー持って待っている。なんかまるで新婚気分。…なんて考えてたらちょっと赤面した。
「なに?」
 蘭が顔を覗きこむ。マジマジと顔見るなよ。余計照れて頭を掻く。照れ隠しに、その辺にあった本を手に取ってパラパラとめくってみたり。…落ちつかない。
「なんか飲む?コーヒー、紅茶、ココアに日本茶。何がいい?」
蘭は蘭で、くるくると動いている。何となく本棚の埃をはたきで払ってみたり。…今することじゃねーだろ。
「いいから、座ったら?」
「あ、でも。じゃ今コーヒー入れてくるね。」
 そう言って部屋を出て行った。
 蘭がいなくなると、なんとなくホッとしてるから可笑しい。ぐっと伸びをして、そのままベッドに仰向けに寝転がる。
 と、そこに蘭の枕。何となく枕の香りを確かめたりして。それは間違えなく蘭の匂いがした。ふと、その枕を抱きかかえるようにして目を閉じる。…とても落ちつく。このまま眠りにつきそうなくらい。
 そのまま、うつらうつらと蘭を待っていた。
 ガチャリ。ドアが開く。
 トレイにコーヒーカップを乗せて蘭が中へ入ってきた。
「な…。なにしてんの?」
 寝転がってるオレをジト目で睨む。オレは慌ててそこに座りなおして。   「もう12時半だもんな。」と、いかにも眠かったと言い訳をする。
 コーヒーの温かさに人心地ついたものの、蘭とオレはいつもと違った空間に会話も進まず。二人してカップのコーヒーを覗きこんで。
「でさ、これの意味ってなに?」
 仕方ないから鈴の音を蘭の目の前に。
「うん…。だって、プレゼント渡し損ねたし…。」
 プレゼント。妙な妄想にとりつかれる。
「はい、これ。」
 と言って包みを差し出す。…なんだ、モノだったか。でも、うれしいから「へへっ」と笑って見せて。
「開けていい?」
「うん。」
 蘭が真赤になって、うつむく。
 包みを開けた。現れたのは…パジャマ?なんで?どういう意味?…なんかやっぱり色々考えてしまう。
「パジャマ?」
「うん、パジャマ。」
「なんか意味シン。」
「そ、そう?」
「ひょっとしてペアだったりして。」
「なんでわかるの?」
 蘭が耳まで赤くなってる。
「着てみる?」
「え?今?」
「オレ、着てみよっと。」
 着てきたセーター─これ蘭の手編みのだよな─脱いで、そうしたら、蘭が焦ってる。服を脱ぎ出したせいだろう。
 「あ、ちょっと。やだ。」なんてパジャマを取り上げたりして。パジャマ取り上げたって意味ないのに蘭は混乱してる。
「なーに、焦ってんだよっ。」
 思わずそんな蘭を捕まえる。とても近くで、さっきの枕と同じ香りにドキリとした。それは、蘭も同じで、縮まった距離に心臓の音さえ聞こえてきそう。
 突然なのか偶然なのか自然なのか…蘭のくちびるに触れていた。蘭の香りと、くちびるの柔かさと、漂う暖かな空気に「しあわせ」を感じていた。
 ここから先、進むべきか…それとも、この和やかな空気のままでいようか、ちょっと迷っていた。実は歯止めの効かない自分をまだ隠している。ここぞとばかりに奪ってしまえと指令するもう一人の自分がいる。…でも迷ってる。

 …夜中に忍び込んで、二人きりで、クリスマスイブで。
 更にジャケットのポケットに潜めて来たオレからのプレゼントを差し出したら・・・。
 そしたら、蘭は?
 「うん」と言わないわけがない、と思う。

「くしゅん」
 中途半端な格好をしていたオレは、ひとつくしゃみをする。
「もう、そんなカッコしてるから…。」
 蘭が呆れて先ほど取り上げたパジャマを差し出した。
 結局パジャマ着るんだな。着るんだ…。仕方なくそれに袖を通して。
「ねぇ、部屋寒い?」
「いや、全然。」
 部屋にはストーブが赤々と燃えていた。寒いどころか、蘭の頬だって真赤だ。…でもこれは、違う意味で赤いのかも。
 何気なく、するりとオレの腕の中から逃げ出してしまった蘭。また少し距離を置いてコーヒーカップを手に取る。もうカップの中にコーヒーなんて残ってないのに。
「蘭…こっち来ない?」
 自分の傍らを指差す。すると意を決したように、蘭が立ち上がり
「わたしもパジャマ着てみよっと。」
 と新しいパジャマを取り出した。
「新一、あっち向いててね。見ちゃ駄目だよ。」
 あっちって言われてもこの狭い部屋。どこ見てりゃいいんだよ。仕方ないからうつぶせにベッドに寝転がる。
 …何やってんだ?オレ。着替えてる蘭、ちょっと見たいし、それこそ手ェ出したいくらいだ。なのに、ああ、情けねー。

 しばらくして。
「ジャジャーン!」
 にっこり笑ってポーズを取る蘭がいた。
「どう?新一。」
 そう言って赤くなってる。…可愛い。胸が高鳴る。
 おい、これは挑発か?
 これ以上我慢しろってのが無理な話だよな。

 …思わず立ち上がって蘭を抱きしめていた。
 揃いのパジャマ、同じ気持ちで、同じ時を過ごして。
 もっと蘭を知りたい。もっと蘭を近くに感じたい。ただ、それだけ。

 silent night,holy night
 それが、サンタからの二人への贈り物だった。

fin

TWO HEARTS

「電気消して…。」
 蘭が口火を切る。それは、はじまりの合図のように。電気のスイッチを切る。いきなり真っ暗になって、なんだかムードすらなくなった。すると蘭が、机にある小さなクリスマスキャンドルに火を灯す。…用意されてたみたいで、照れるな。
 そして蘭が振り返り様ににっこりと笑った。
「ね?可愛いでしょ?」
「ん?ああ。」
 こう言う時、何て言ったらいいんだろう。いい言葉が見つからない。
 ベッドの傍らで、隣に蘭が座って、ドキドキしながら顔を見る。うつむきがちで、ガチガチになっているのがわかる。緊張が伝わってくる。
「あ、あのさ…。蘭。」
 暗闇でこちらを見るその瞳が潤んで見える。ああ、もう言葉なんてどうでもいい。
 抱き寄せて、そしてキス。
 パジャマのボタンをたどたどしくはずして、ベッドに蘭を横たえる。
 白い下着があらわれ、それを取る前にその胸に耳を傾ける。
「スゲー、ドキドキ言ってる。」
 その胸の柔かさに、実はこっちがドキドキしてる。
「これ、はずしていい?」
 指でブラジャーのホックをたどる。
「バカ…、そんなこと聞かないで…。」
 おっと、余計なことは言わない言わない。だけど、拗ねたような蘭の表情が妙に色っぽい。いつの間にこんな顔するようになったんだ?こいつ…。
 自分のパジャマを手早く脱いでいると、蘭の視線を感じた。
「なに?」
 聞くと、
「ううん…なんか新一、大人っぽいから…ビックリしちゃった…。腕なんてこんなに逞しかったっけ?」
「そ…そっかなぁ。」
 自分の腕を見ても、そんなふうには全然思わないけど。
 ようやく、蘭のブラジャーのホックをはずす。あらわれた白い胸に目を奪われて触るのも躊躇してしまった。
 目を閉じて次の動作を待っている蘭。なんだか健気にも見えて。とても愛しくて。
 もう一度キス。頬にキス。首筋にキス。耳たぶにもキス。
 躊躇していた胸に手を滑らせて。はじめて触れる胸の感触、確かめながら、気持ちは高揚していく。その先端にくちづけると、蘭はビクリと体をこわばらせる。
「あ…、ん…。」
 はじめて洩れる蘭の声、艶めいて。
 …そこから先の記憶が途絶えた。
 
 蘭…、その名を何度も呼んだ。
 はじめての痛みに、蘭が顔を歪め、辛そうな声を洩らして。
 それでも背中に手を回して抱きしめてくる。
「大丈夫か?」
「うん……。」
「ごめん、オレ、止まんねーんだ…。」
 そんな風にして、オレと蘭は一線を超えた。









 TWO HEARTS......from RAN

 結局、わたしが誘ったのね…
 なんて大胆なこと…。自分でも信じられない。
 これってやっぱりクリスマスの魔法かもしれない。
 新一の心臓の音が聞こえる。ドキドキと伝わってくる。それを聞いて、わたしもドキドキが増していく。
 恥ずかしいから、何も聞かないで。何も言わないで。
 少しずつ、その手がわたしに触れる。
 新一に触れられると思うだけで、すごく敏感になっていくわたしの肌。
 電気に触れたようにビリビリと快感を手に入れていく。
感じてる…。
 触れられると、とてもうれしくて、とてもしあわせで、満たされていく。…少しずつ。
 新一のその手はとても優しい。
 いつしか、意識することもなく声を漏らす自分に驚く。
 恥ずかしい…。わたしは逃げ出したくなる。
 だけど、新一の手はわたしを離してはくれない。逃れられない。逃げ出したいと思っていたのに、そうされることがうれしかった。
 新一が何度もわたしの名前を呼ぶ。
「蘭…」と。
 そのどこか切なげな声が…今まで聞いたことのないその切なげな声がわたしの心臓を撃ち抜く。
新一のものになりたいと体が叫ぶ。
 今まで「ひとつになること」がどういうことなのか、知らなかった。
 心と同じく、この体も新一を求めてることにわたしは気づく。
 一つになりたい。
 あなたの中で溶けてしまいたい…。
 激しい痛みの中で、微かに知る悦び。
 なんだろう?これは。
 好き、だけじゃない。
 …わたし愛してる。新一をすごく愛してる。
 心に広がる新一への想い。
 ねぇ、わかる?新一?
 感じる?
 ずっとずっと…こうしていたいね。

「まだ、その…痛い?」
 ベッドに横たわって、二人して何を話していいのかわからない。
 蘭は、痛いともそうでないとも恥かしくて言えない様子で。
「新一…変なこと聞いていい?」
「ん?」
「あの…さ。」
「なに?」
「そのまま、したでしょ?」
 何を言い出すやら…。
「今更言ってもアレだけど……出来ちゃうよ…。」
 そりゃ…そうなんだけど…。
「そんなの、今更…だけど、言い出せなかったんだもん…。」
「うん…。」
「出来てもいいの?」
 すごい質問だ。
「ごめん…。わたし、何言ってるんだろうね…。」
 そう言うと、蘭の瞳から光るものが見えた。涙?なんで泣いてる?
「蘭、目ェ、つむってて…。」
「え?何?」
「いいから、ちょっとだけ、目、つむってて。」
 オレはベッドから起き上がって、着てきたジャケットのポケットを探る。
 とっておきのプレゼント…これでもう蘭を泣かせたりしない。
 蘭の元に戻って、オレはその箱を開けて。ホントはキレイに包装してあるし、そのまま「ハイっ」って渡そうと思ってたけど。
 蘭の指、意外と細くて。左手の薬指にそっとそれをはめる。…銀色の指輪を。
「え?」
 驚いた蘭は、目を開けてそれを確かめて更に驚いて。
「クリスマス、プレゼント…?」
 と聞く。
「それもあるけど、約束の印、かな。」
「約束って…?」
「ずっとそばにいる約束。…蘭、結婚しよう。」
 ちょっと早かったかな、この台詞。だけど、いつかは言おうと思ってたから。冗句だと思ってるのか?返事がないけど…。
「どうした?」
 蘭を見ると、更に大粒の涙が瞳からこぼれて。それを見たらちょっと焦った。
「おい、こら。この泣き虫!」
 小突いて笑ってみせた。
「泣くんじゃねーよ。」
「だって…。」
「だってじゃねーよ。」
「うれしいんだもん…。」
「バーロー!うれしいんなら、尚更泣くんじゃねーっての。」

 小さなベッドで抱きしめあって、朝を迎えた。
 蘭といると暖かで、外が雪で真白になってるのに気づかなかった。
 ホワイトクリスマス。
 …もしもサンタクロースがいるのなら、「二人の未来」…それがサンタからの贈り物だったのかもしれない。

fin

 

*この話は、蘭ちゃん後援会MLにて流したものです。更に「ふぁれのぷしす」春休み特別号として本にもしてみました。
今回、ある部分を加筆して、ここにアップした次第です。新一くんと蘭ちゃんのはじめて話。もっと色々読みたいものです。